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HORN

手前に向かって広がるフレーム、安定感とともに存在する軽快さ…新潟・燕三条のへら絞り技術を用い、伝統とコンテンポラリーを調和させたHORN。
どのようにして生まれたのかを、デザインを手がけたMUTEのイトウケンジ氏に聞きました。
HORN

 

正面から見るとベーシックでシンプルなデザイン。
でも、視点を変えれば、不思議とまったく違う表情に。

HORN の潔いたたずまいと、静謐な存在感は、
まるで時の流れのように、周囲の景色に美しく溶け込みます。

 


PRODUCT STORY Vol.4

 

—— まず、MOHEIMとの出会いについて教えてください。

MOHEIMクリエイティブディレクターの竹内茂一郎氏とは同じ桑沢デザイン研究所の卒業生として以前から親交がありました。竹内氏がMOHEIMを立ち上げた後、SWING BINに続く商品として「時計の新たな定番となるような、シンプルで上質な壁掛け時計をラインナップに加えたい」と声をかけていただきました。

MUTEにはデザインの方向性やフィロソフィーに共感していたということで、「MOHEIMの世界観を体現してくれ、ブランドに調和するものをきっと創り出すことができる」と期待してくれたようです。

—— HORNという名前にしたのは、どういった理由なんでしょうか?

時計のフレームが薄く、壁面側から前面に向けて広がる形と、それをヘラ絞りで作っていること、この2 点が管楽器に共通するためHORNとしました。

最初は真鍮で作ることも考えていたので、それも少し影響しているのかな、と思います。昔は時を知らせるときにラッパを使っていましたよね。そこにも通じると感じています。

—— デザインのコンセプトについて聞かせていただけますか?

デザインするにあたっては、できるだけシンプルな時計でどんな環境にも馴染みやすいものにしたいと思い、要素を最小限に抑えることから考え始めました。

物理的に最小限を求めると文字盤とムーブメントと針で足りるわけですが、それはそれでスタンダードな掛け時計のボリュームとかけ離れてしまって、特別な印象になってしまいます。でも、奇をてらったデザインの時計を作るのは違うと思いました。

必要最小限のパーツしか使わない。でも、「フレームの薄さ」「広がりのある角度」「奥行きの深さ」で時計としてのボリュー ム感を持たせ、全体のバランスをとりました。これがHORNをデザインするにあたってこだわった点です。

時間を見るときは文字盤と針だけが見えてきて、それ以外のときには空間に対しての適度な存在感がほしかったのです。HORNは正面から見ると、本当に潔い丸い掛け時計に見えますが、見る角度によって全然印象が変わります。正面と側面の見え方の違いはこの時計の最大の特徴と言えるのではないでしょうか。

—— フレームに、燕三条の「へら絞り技術」を使うことにした理由は?

はじめは、素材としてバルカナイズドファイバーなどの硬質パルプを考えていました。

しかし、金属をへら絞りで成形した方が強度を保ちながらフレームを薄くし、さらに文字盤やムーブメントを固定しやすくできるということから、最終的にこの技術を採用することにしたのです。結果的に「へら絞りで作ったスチール製のフレーム」は、HORNの一つの特徴になったと思います。

—— HORNのデザインで、難しかった点や、試行錯誤を重ねた点はありましたか?

文字盤の見やすさや、素材であるアクリル板への印字方法など、いくつもサンプルを作り検討しました。

まず、見やすい文字盤であることが重要だったので、そのデザインについては再考を重ねました。例えば、目盛や針の太さや長さなど、文字盤の見やすさを左右する要因はたくさんありますし、さらに全てが一緒に文字盤に並んだ時のバランスが大切です。デザインが決定するまでには、かなりの時間を費やしました。

また、もう一つ配慮した点は、白いアクリルに表から印刷をするのではなく、透明のアクリルの裏から文字盤(目盛りと白いベース)を印刷し立体感を出すことで、安っぽい印象にならないようにしたことです。

—— copperに、navy、grayというカラー展開については、どのように決めたのでしょうか。

copperを採用したのは、銅という素材が持つ品の良さや、銅ならではのメタリックな存在感に惹かれたからです。

grayはミニマムな空間や木を多く使った空間、カラーの壁紙や塗装された壁など、様々な環境に取り入れやすいニュートラルなもの、navyは白を基調とした空間のほか、レトロな空間との相性もよいもの…と各カラーについて、私なりの考えを反映しました。

さらに、navyはツヤあり、grayはツヤ消し…と色とあわせてツヤ感についても、それぞれの環境にふさわしいものを指定したのがこだわりでしょうか。

—— デザイナーという視点から、このプロダクトにこめた思いなどを教えてください。

HORNという時計は正面から見るとシンプルに見えますが、実は個性的なデザインです。でも、個性がある=主張する、というわけではなく、その場の雰囲気を乱すことはありません。つまり、使う場所を選ばないのです。静かなたたずまいで、どんな空間にもなじみますから、幅広くさまざまなスペースで使ってほしいと思っています。

ですので、新築や引っ越しの際のプレゼントにしても、きっと喜ばれるはずです。誰かに贈りたい品として選んでいただけて、贈られた方も、贈った方も、どちらも幸せな気持ちになってもらえると、とても嬉しいです。