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YUKI wood

コロンと丸みを帯びた形がしっくりと手になじむYUKI woodはMOHEIMのブランド立ち上げ当初にラインナップの一つとして誕生しました。
石川県の山中漆器を手掛ける職人が一つひとつ丹念に仕上げる器は日本一の呼び声が高い技術で作られるからこそ、軽くて、薄くて、そしてなめらか。
やわらかで上品なフォルムが印象的なこのカップにまつわるストーリーを、デザイナー・竹内茂一郎が語ります。
YUKI wood

 

やわらかで奥ゆかしい 上品な木のうつわ

美しさと使いやすさが両立するYUKI wood。
その一つひとつは、日本一の技術を誇る山中漆器の木地師の手によって生み出されます。
無垢の木から削り出し、匠の技によって極限の薄さに仕上げられる木製のカップはしっとりと手になじむやわらかなフォルム。
国産水目桜の木目と相まって、いつまでも愛でたくなる一品です。

 


PRODUCT STORY Vol.11

—— MOHEIMのアイテムのネーミングは「SWING BIN」や「STONEWARE」など、「アイテムそのものを表すものが多いなか、「YUKI」という名前はユニークに感じられます。その由来について、まず教えてもらえますか?

YUKIという名前は「雪」から来ているんです。YUKI woodは日本一の技術を誇る山中漆器の木地師が、無垢の木から一つひとつ削り出して作っています。その山中漆器を生み出している石川県の山中温泉郷の冬景色をイメージして「YUKI」と名づけました。やわらかでいて、力強い…そんな印象でしょうか。

YUKI wood

—— YUKI woodを作ろうと思ったそもそものきっかけはどういったものだったのでしょうか。

15年ほど前だったでしょうか。地方の地場産業や伝統工芸の作り手とデザイナーの交流会兼マッチングイベントがあり、そこに参加したときに山中漆器の作り手の方と出会い、すぐに「この技術を活かして、何か一緒に作りたい」と思ったのがスタートでした。

—— 山中漆器の技術に感銘を受けたことがきっかけということですね。山中漆器がどういったものか、とても興味が湧いてきました。

石川県加賀市の山中温泉地区で作られる山中漆器は、安土桃山時代から450年もの歴史を誇ります。そもそも漆器が有名な石川県の漆器の三大産地の一つで「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」に並んで「木地の山中」と称されています。

—— 「木地の山中」と言われる所以がYUKIを生み出す理由になったわけですね。その技術について、詳しく教えてほしいです。

古くから、ろくろを用いてお椀やお盆などを加工・製造する「木地師」が多く活躍している山中は全国一の木地ろくろ挽き産地。全国に漆器の産地はいくつかありますが、山中漆器の一番の特徴は「縦木取り」です。木が育つ方向に器の形を取る…つまり、木を輪切りにした材料から器を取る方法です。通常の産地では「横木取り」で器を作っています。

木取り説明イラスト

—— なぜ縦木取りをするのか、そのメリットはどういったものでしょうか。

縦木取りで作った器は、テーブルに置いたときに原木が上に向かって成長するままの方向を向いていますよね。そのメリットは、強度があって、歪みや収縮に強いことなんです。

木材は、その特性上、乾燥すると大きく歪みます。そして、薄ければ薄いほど歪みに弱くなります。そこを見越した上で敢えて縦木取りという方法で器を作る。そして、縦木取りをしたのち、3~5年という長い時間をかけて行われる「乾燥」のプロセスを経てから、熟練の職人技をもって生み出されるのが山中漆器です。ただし、縦木取りと通常よりも長い乾燥期間を経ればよい漆器が作れるか…というとそんなことはないんですね。

—— 山中の木地師の職人技についてもっと詳しく聞きたいです。

山中の職人さんたちの技術は日本で一番高いと言われています。つまり、彼らの技術は世界で一番と言っても過言ではないと思います。そのすごさの一つは仕上がりの「薄さ」なんです。山中の木地師が得意とする「薄挽き」という技術がその薄さを生み出します。

木地師

YUKI woodを見てもらっても分かると思うのですが、カップの口部分の厚みは本当に薄いんです。でも、もっとすごいのは、山中漆器の職人さんは薄さになめらかさも兼ね備えたものを完成させることです。これは技術的に非常にハードルが高い。技術が足りないと、どうしても割れたり穴が開いたりしてしまうそうで、薄くなめらかに仕上げられる木地師は本当に限られています。

ちなみに「薄挽き」には「木目を読む」という熟練の技も必要になってきます。的確に木目を読む職人がろくろ挽きをすることで、さらに歪みにくくて木目も美しい製品が仕上がります。

—— 職人技の極み…ですね。

そうですね。木地を「挽く」ことと「木目を読む」ことが本当に重要で、ろくろ挽きをする木地師の方は一つの製品を挽くために様々な刀を使い分けます。その刃物も自身で打ち鍛えたり、刃先を薄くしたり…と鍛造してカスタマイズしているんだそうです。

刃物

この職人技が実現する「軽くて薄いのはもちろん、なめらかで美しい」器を、自身のデザインで表現したいと思って誕生したのがYUKI woodです。

YUKI wood up

—— この薄さは本当に秀逸だと思います。軽くて、そして驚くほど手になじみますね。

見ていただけるとわかるかと思いますが「直線がない」デザインにしました。底面にはもちろん直線になる部分がありますが…見た目からは直線的なラインは感じられないのではないかと思います。そして、良い意味で「微妙なゆるい曲線」が手になじみやすいフォルムに仕上がっています。ちなみに、この形状に行きつくまでには、ミリ単位で何度も何度も調整しました。持ったときにしっくりと手になじむよう、妥協せずに試作を重ねましたね。

そして、使われている樹種にもこだわっています。使うのは、奥ゆかしくて上品な木目を持つ国産の水目桜。木目が一つひとつ違った表情を見せてくれるんです。

YUKI wood

—— ちなみに、バリエーション豊かなカラーも気になります。

もともと、水目桜の木そのものの風合いを活かしたnaturalと、漆の美しさが際立つbrownの2色展開でした。

オーソドックスなnaturalとbrownだけでなく、ちょっと新しいタッチを感じられるカラーを追加したいと思ったんです。そして、2022年にgreigeとnatural shibukiの2色を追加しました。

YUKI wood natural shibuki

—— 特にnatural shibukiは、伝統的な味わいを残しつつもコンテンポラリーな雰囲気です。

natural shibukiは、職人さんが漆でスパッタリングをしているわけですが、外側にも内側にもある程度均等にしぶきを散らすのは難しい技です。ここにも山中の職人さんの技が光っています。

—— この山中漆器の木地師さんたちの技術があるからこそ誕生したYUKI woodのストーリーを知ることで、より美しく、そして力強さも感じるようになりました。

MOHEIMの商品説明部分では必要最低限の表現でしか紹介していなかったのですが、YUKI woodは語るべきストーリーや背景が本当に多いアイテムだな…と再認識しました。山中漆器の職人さんたちの、良い意味での「恐るべき」技から生まれた逸品であることを、みなさんにぜひ知っていただきたいです。そして、実際に使ってもらって、その手ざわりや薄さ、軽さ、口当たりの良さを実感してほしいと思います。

ちなみに、YUKI woodの最終仕上げとして食用ウレタン塗装のコーティングを施しているので、日常使いとしてどんどん使っていただければ。ギフトとしてプレゼントしてもきっと喜ばれるはずです。

YUKI wood